タイのハ号について . . 現在、タイには九五式軽戦車が多数現存している。 大東亜戦突入前に、日本から約50両が輸出されたという。 アジ歴の公開資料に、昭和15年の 陸軍省と泰国公使館附武官との極秘電報が何通かあり、 そのへんの事情を何となく窺うことができる。 . ●泰国兵器輸出に関する件 次官より泰国公使館附武官へ 一、三八式歩兵銃、三十年式銃剣、九六式軽機関銃、小銃実砲は希望の数量即時輸出可能なり 二、戦車は九五式軽戦車（三十七粍砲装備）一〇、 　　九四式軽装甲車（機関銃装備）四〇、 　　戦車用無線機一〇、部品約十万円輸出可能なり 　　但契約成立と共に一〇輌、其后毎月約一〇輌宛とす 三、飛行機は空輸により概ね十月下旬以降成るべく速かに出発せしむ 四、輸出価格に就ては昭和通商に示しある範囲とし度 五、尚貴見と共に購買に関する泰国側の態度を通報せられ度 昭和15年10月8日 昭和15.10.4 総務部長宛　　　泰国公使館附武官 一、軽爆撃機二十四、五十瓩爆弾二千個、小銃二万五千、軽機関銃一千、小銃弾三千万、其他購入に決す（詳細は昭和電参照） 二、右に関し、将来に対する兵器政策と信用の見地上、六粍五の時代後れのものは売りたくなし、何とかして七粍五のものを売り得ざるや　将来のことを考えて検討せられ度 三、右値段及支払いに就ても多分に政治的考慮を必要とす 政策的には要すれば製造原価を割ることも覚悟せられ度 兵器局長に伝えられ度　　　　（終） 昭和15.10.4 総務部長宛　　　泰国公使館附武官 泰国と仏印間の状況切迫に伴い泰国は目下軍備増強に奔命中、泰空軍は大至急に軽爆撃機二十四、五十瓩爆弾二千個を至急入手し度　直に積出してくれ、やむを得ざれば其の半数にても即時積出してくれと小官に懇請し来れり 何とかせられ度　至急返 陸軍省　航空本部にも伝えられ度　　　（終） 昭和15.10.5 総務部長宛　　　泰国公使館附武官 一、三日「ワニット」は「ピブン」の命に依り来談次の如し 小銃、重機関銃、飛行機等は至急入用なるに付其の一部なりとも最近の便船にて直ちに積出しを乞う又軽戦車（全装備とも）五十台至急入用に付其の一部なりとも至急積出あり度尚「ピブン」は泰国軍の使用兵器の補給を今後全部日本に仰ぐことを決心せるを以て日本側に於ても商売的見地を離れ政治的に考慮せられ度と 二、右の如く国際情勢の変転に伴い日、泰の軍事提携は著々進行しつつあり此の際我が方としても兵器売却問題を戦略的に考慮する必要あるに至る　今や大宮中佐の如き人を駐在せしむることも時宣に適するものと思考す　　　　（終） . ▲ピブン タイの首相ピブンソンクラームのこと。当時、英仏に奪われた失地の回復運動を進めており、仏領インドシナと英領マラヤに対し国境線の確定を要求、仏印はそれを拒否していた。 この年9月、日本は援蒋ルート遮断のため北部仏印に進駐。これを好機ととらえたタイは仏印との戦争を決意する。11月23日、タイ空軍は仏印領内に爆撃を実施、翌16年には陸戦が始まり、海戦も行われた。そのため兵器の調達が急がれたようである。 タイと仏印の戦争は、結局、日本の仲介で5月に終戦となり、タイの領土要求はすべてかなえられた。 ▲昭和通商 昭和14年に陸軍の意向で設立された商社。 前身の泰平組合は、余剰となった軍の旧式小銃・火砲の払い下げを受けて中国・タイ等に輸出する目的で、三井物産、大倉商事、高田商会の3社が共同出資して設立された。 昭和通商は高田商会が抜けて三菱商事が加わった。 ▲大宮中佐 この時期、日本兵器をタイに融通するため活動していた人らしい。 . . . 以下、その他の関連資料 ●泰国兵器製造拡張に関する件　　昭和15.6.20　 軍務局長宛　泰国公使館附武官 一、泰国防省は小規模ながら一通りの兵器製造所火薬製造所等を備えあり・・・ 二、研究調査の為将校を派遣せらるることを希望する所なるも直ちに効果を期待せらるるは適当ならず　若し今回の兵器売込みに成功せば該兵器納入と共に之が使用、取扱修理法指導、併せて実情調査を為す為民間人に変装せる適当の将校を派遣せらるる寧口適当と思考す （終） . ●兵器積載明石山丸の件 次官より泰国駐在帝国公使館附武官へ 貴国向兵器積載の明石丸は七月一日午後五時門司出帆す 昭和15年7月4日 . ●鉄帽試験に関する件 次官より泰国駐在帝国公使館附武官へ 鉄棒試験條件は滑腔歩兵銃（口径12.5粍）球鉛弾実包（弾量10.6瓦）を使用し射距離2.5乃至5米存速296米にて射撃し凹痕20粍以下とす 大宮少佐に伝えられ度 昭和15年7月17日 . ●泰国軍人招待の件 次官より泰国駐在帝国公使館附武官へ大宮中佐へ伝えられ度 泰国軍人招待の件は本月下旬泰国国防次官を主体とする視察団訪日の由に付該一行に本関係者を数名増員の上参加せしむる如く交渉せられ度 昭和15年8月7日 軍務局長宛　　発信者泰国公使館附武官 大宮中佐より兵器局長宛 泰兵器廠内に於て実施中の見本兵器に対する所要の手入は略終了せるを以て近く展覧竝に実射を為さんとす手入中立会せる泰軍人の言を総合すれば結果左の如し 一、見本兵器を通じ日本兵器の優秀性に相当の研究興味を覚え引合成立せば検査の為渡日を熱望するものあり 二、泰政府側は見本兵器の展覧竝に射撃後引合を進捗せしむる如き気構えあり　　（終） . ●兵器売込に関する件 次官より泰国公使館附武官へ 一、泰国親善使節一行軍需工業視察中プロム大臣の言によれば兵器購買は帝国に依存する略確実視さるるを以て交渉慎重を期され度 二、国際情勢の変化に伴い兵器輸出品目数量価格に若干変更を生ずべきことあるに付今後見積呈出前一応連絡あり度 三、昭和通商の報告によれば輸出兵器と輸入米との代金決済につき関係あらしむること貴地農林省技師考慮しある模様なるも本省としては目下の處別問題として進むることに一致しあるに付承知され度 昭和15年10月14日 右昭和通商にも伝えられ度 . ●輸出兵器契約条件に関する件 次官より泰国公使館附武官へ 第二次契約の軽戦車四〇台に対する契約條件は契約完了と同時に五割現品到着時に五割支払の条件にて契約せられ度交渉成立せざる場合破棄差支えなし　今後に於ける兵器売却の契約條件は本要領に依り実施致度、又兵器輸出に伴う訓練教育等の為相互人員の派遣は別途契約に依り実施致度意見なり 昭和15年11月18日 . ●兵器見本送付に関する件 副官より陸軍兵器本部長に通牒 兵器見本として泰国駐在帝国公使館附武官へ別紙の通送付せられ度依命通牒す 追て費用は軍事費兵器及馬匹費支弁に付申添ふ 昭和15年12月2日 次官より泰国駐在帝国公使館附武官へ通牒 兵器見本として別紙の通陸軍兵器本部をして送付せしめらるるに付通牒す 昭和15年12月2日 別紙 三十年式銃剣 三八式歩兵銃 十年式信号拳銃 九六式軽機関銃 同　三脚架乙 九二式重機関銃 八九式重擲弾筒 九四式三十七粍砲 九四式軽迫撃砲 小型無線機　含水晶片 九五式電信機 九二式電話機 九三式八回線交換機 九二式小被覆線 九二式小絡車胴 九二式小絡車 九二式小線巻匡 九二式延線機 九七式自動貨車　いすゞ自動貨車とす 九五式軽戦車模型　三菱より受領するものとす 鉄兜　大阪造兵廠より送付するものを充当す 三八式銃実包挿弾子紙函共 以下略（砲弾） （備考）本兵器は本年六月送付済のものとす . ●泰向輸出飛行機の件 大臣より在泰国田中大佐宛電報（在泰国駐在武官気付） 田中大佐へ伝えられ度 各種の困難を克服し無事任務を達成せられたるを祝し此間に於ける団長以下の辛労を多とす 昭和15年12月20日 次官より台湾軍、波集団、西村部隊各参謀長及澄田機関長宛電報 泰向輸出飛行機は十八日十一時全機無事盤谷に到着せり 本件に関し従来の御配慮を深謝す 通電先、台湾軍、波集団、西村部隊、澄田機関 昭和15年12月20日 . ●昭和通商株式会社利用に関する件 次官より泰国公使館附武官宛 一、泰国より軍用（民間用にありても軍用に準ずる性質のものを含む）兵器類似品を昭和以外の商社を通じ内地に注文せらるる向あるも統制上不利に付爾今兵器並に兵器類似品の取扱は全部昭和通商を通ずる如く指導せられ度 二、泰国より物資を取得する場合は輸出兵器の代金の決算と無関係に別途購買するの方法により度 但し航空関係の代金決算は研究中に付後報す 三、支払条件は五割後割又は三割七割とし度其何れによるやは政略的見地に基き決定したきにつき其都度連?せられ度 四、大宮中佐の携行せる見本兵器の処分に付具体的意見承知致し度 昭和16年1月21日 . H23.5.30 　 　 ［帝国陸海軍現存兵器保有国一覧］リストへ ［依代之譜］よりしろのふ　トップへ